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Column de saison

『メニルモンタン、2つの秋と3つの冬』

この映画は、先月の27日にロバボンで『メニルモンタン、2つの秋と3つの冬 Deux Automnes et Trois Hivers 』という映画をテーマにトークイベントをやりました。今回はこの映画をとりあげてみましょう。

 

主人公のアルマンは33歳。冴えないタイプの男性ですが、人生を変えようとしてパリのビュットショモン公園を走り始めます。そこでアメリという女性とぶつかって、人生の転機を迎えます。

 

3automnes現在30歳代のフランスの世代は、社会の中での自分の居場所がわからない、一種のロスト・ジェネレーションとみなされているようです。アルマンは33歳、アメリは27歳。監督のセバスチャン。べべデールも36歳で、彼の同世代の映画を撮っているわけです。アルマンが映画か撮られた2013年の時点で33歳だったとすれば、彼がボルドーで大学生時代を過ごしたのは、2000年代前半(2003年に20歳)ということになります。そのころ、フランスはユーロバブル(2004年から2007年がピーク)で景気が良かったのです。美術系の大学でのドラッグとアート談義に耽る自由で気楽な日々は、その時代を反映しているのでしょう。その後、一気に景気が悪くなり、はしごが外されてしまったわけです。映画の中で彼は小さな仕事をして食いつないでいると言っていますが、彼は好きでそうしているわけではないのです。

 

この作品の特徴は主人公たちがカメラに向かって告白する形式になっていることです。このモノローグのような語りの形式は、登場人物たちの気持ちの伝わらなさ、深い孤独感を際立たせています。一方、観客は彼らの内面を直接のぞきこむことになり、それが主人公たちと観客とのあいだに共犯関係のようなものを生み出します。観客の方がアメリよりもアルマンのことをよく知っているし、アルマンの本当の気持ちや本音を聞かされるわけです。

 

印象的なのは、アメリが妊娠し、アルマンに相談もせずに子供を堕ろしてしまうシーンです。アメリはなぜそんなことをしたのかアルマンに説明できません。ふたりのあいだに立ちはだかるものは、単にふたりの相性やタイミングの問題だけではなく、将来に対する漠とした不安があります。ふたりでやっていくことがすでに綱渡りなのに、さらに子供なんて作れるだろうか。冒頭でアメリは「まだ27歳半だけど、すでに老いることを心配している」とつぶやいています。

この映画は他の映画作品やサブカルへの言及も面白いのですが、2つの挿入歌ももう一度思い出す価値があるでしょう。ジャド・アパトー監督の映画『ファニー・ピープル』を見た後入ったブラッスリーのギャルソンがミシェル・デルペッシュに似ていたという台詞のあとに、デルペッシュの歌「狩人 」”Le chasseur” が流れます。実際は自転車で家に帰るアルマンの iPodの中で流れているわけですが、「私は霧に包まれた沼地(=マレ)を進んでいた。突然、視界が開けて野鳥が地中海に向かって飛んで行くのが見えた(空を飛ぶ野鳥の映像がコラージュ)」という歌詞が、アルマンがパリのマレ地区(かつて沼地だった場所)を自転車で走るシーンと重なっています。

 

最も心を打つのがエンディングに流れるベルトラン・ベッシュの「逆風」”Les vents contraires” です。「僕たちは逆風に立ち向かっている。僕たちは泥の中で裸で戦っている。僕たちはガラスの破片の上を歩いている。だけど、僕たちはまだ立っている。僕たちは何とか持ちこたえている」。この歌詞がふたりで手を取り合って何とか先に進もうとうするアルマンとアメリの姿に絶妙に重なり合います。

le 10 mars 2016
cyberbloom

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