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Column de saison

『パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら』

中島たい子さんの著書、「四角いバゲット」。まずタイトルに引っかかります。え、バゲットっていう言葉には「細い棒」っていう意味もあるけど、パンのバゲットも細長い形だから、そう呼ばれているんでしょ?だから「魔法の杖」は baguette magique だし、私たち日本人が使うお箸も複数形(2本で一組だから)の baguettes っていうじゃないの…?

 

と最初は少々訝しく思ったんですが、実はこの「四角いバゲット」とは、著者である中島たい子さんの叔母ロズリーヌさんのお手製パンのことだったんですね!中島さんによると、このパン、四角くてレンガみたいな形をしているけれど、「スライスして焼いて食べると、気泡が大きいのでバリッとして」、バゲットの食感がするとのこと。ロズリーヌさんの娘さんは「ママンのパン」と言っていますが、正式名称(?)は「ブルターニュのパン」だそうです。

 

中島さんは40代半ばで30数年ぶりにフランスの親戚宅に滞在した折、子供の頃は身近すぎて興味がなかったというフランス的ライフ・スタイルに魅せられていくのですが、そのキッカケになったのが、まさに叔母さんのこの「四角いバゲット」。

 

あまりの美味しさにハマった筆者は、叔母さんにつくり方を教えてもらうことに。その過程で、フランス人が安全だからとか健康に良いからとかではなく、単純にそれが美味しいから、さらにちょっとした時間で簡単に作れるから、自分で作って家族で食べているのだということに気づいていきます。肝心なところは押さえつつ、余計なものはそぎ落とし、しかし常に自然体(大ざっぱともいえる)、便利さより感性を優先する。中島さんは、この精神が、パン、デザート、ドレッシング、トマトソースといったお料理だけでなく、彼らが生活の中で使うものを含め、生き方全般に及んでいることを、フランスに住む叔父・叔母ご夫婦や従兄弟たちを観察しながら、発見していくのです(ご本人によれば「開眼」した、とのこと)。

 

中島さんにとっては、「四角いバゲット」は、こうしたフランス人の価値観の象徴なのですね。

「美味しさ、楽しさ、美しさ、そして幸せは、絶妙なバランスから生み出される。」年齢を重ねても、軽やかに人生を生き抜いていくサバイバル術が、この著書を読むと学べそうです。

 

叔母のロズリーヌさんや従姉妹さんたちに教わったお料理のレシピも試す価値あり!

 

 

le 20 aout 2018
cyberbloom

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