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Column de saison

カフェ・ド・フロールの日本人ギャルソン(1)

先回、哲学者のジャン=ポール・サルトルがカフェ・ド・フロールに入り浸り、ギャルソンの動きを詳細に観察していたことを書きました。そのカフェ・ド・フロールに日本人のギャルソンが働いていることをご存じでしょうか。

 

今年のゴールデンウイークのあいだ、日本の安倍総理はヨーロッパの国々を歴訪していました。安倍総理はフランスを訪問したとき、エリゼ宮で行われたオランド大統領主催の晩餐会に招待されました。そのときに一緒に招かれた日本人の中にひとりのギャルソンがいました。彼の名前は山下哲也さん。外国人で初めてパリのカフェ・ド・フロールでギャルソンとして雇われた方です。安倍総理は山下さんのことを知らなかったそうですが、晩餐会の席でオランド大統領から安倍総理に紹介されるという光栄にあずかったと、山下さんのブログに書かれていました。

 

仕事先のカフェ・ド・フロールに大統領府から招待状が届いたときのことも書かれていて、スーツを着た人がフランス共和国大統領府の刻印と「緊急」の文字が書かれた招待状を届けにきたとか、羨ましくも興味をそそられる記事でした。エリゼ宮へは市バスで赴き、晩餐会の隣の席はアラン・デュカスだったとか!

 

カフェ・ド・フロールはしばしばサルトルやボーヴォワールの時代、あるいはそれより前のピカソやシュルレアリスムの時代に結びつけて語られますが、山下さんによれば、今の時代も負けていないそうです。彼の Facebook にはお客さんの名前として、ロマン・ポランスキー、ジュ―ド・ロウ、スカーレット・ヨハンソンの名前が挙がっていますが、あのカール・ラガーフェルドも山下さん目当てに来店し、彼の持場の席に座るそうです。

 

山下さんは雑誌(『料理通信』2013年8月号)のインタビューの中で「ギャルソンこそ、カフェ文化の継承者であり、エスプリの体現者です。その役柄を演じ切ることが、伝統的な過去を遺物にしない術だと思うのです」と話しています。この発言は先回引用したサルトルの「ギャルソンは、意識できない不安定な自分の存在から逃れるために、ある役割の中に自分自身を見出すという演技=ゲームをしている」という一節に呼応しないでしょうか。山下さんは「シャルベ」のシャツと「JMウェストン」の靴できめ、「より速く、より強く、より美しくを信条に、ひとつひとつの動作を、自分の悦びとしてマニアックに追求している」そうです。ブログにデカルトを引用しているほどの山下さんですから、サルトルのギャルソン論を逆手にとった発言なのかもしれませんね。

 

パリのカフェ文化がスターバックスやマクドナルドに浸食されつつある時代において、意識的に「ギャルソン道」を演じてみせなければ、カフェの伝統もギャルソンの振る舞いも文化のグローバル化の中に埋没してしまうという危機感なのでしょう。それに加え、日本人は「道」として様式化するのが得意ですから。ロバボンもこの「ギャルソン道」を究めたいと思っています。

yamashita
Photo via cafe de flore. Merci beaucoup!
le 3 juin 2014
cyberbloom
 

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